副業で収入を得るサラリーマンが増えている昨今、気になるのが税金の扱いです。副業による所得は、その性質によって「事業所得」と「雑所得」のいずれかに分類されます。この分類は、税金の計算方法や確定申告の手続きに大きく影響するため、しっかりと理解しておくことが重要です。本記事では、副業サラリーマンに向けて、事業所得と雑所得の違いを分かりやすく解説します。正しい知識を身につけ、適切な納税を行いましょう。
事業所得とは?
事業所得とは、自分で「お店を開く」「仕事を請け負う」といった、継続的なビジネス活動から得たもうけのことです。
- 農業、漁業
- 製造業(ものを作って売る)
- 卸売業・小売業(商品を仕入れて売る)
- サービス業(美容師さんやプログラマーなど)
などから得た収入が「事業所得」にあたります。
事業所得の計算
事業所得は、次の式で計算します。
事業所得の金額 = 総収入金額 - 必要経費
売上げから経費を引いた「本当のもうけ」が事業所得です。
総収入金額とは?
事業で得たすべてのお金や価値のことを言います。
- 商品やサービスを売って得た売上げ
- 売れ残り商品を自分で使ったときの価値
お金だけじゃなく、モノや権利をもらった場合も「収入」としてカウントします。
必要経費とは?
収入を得るために実際にかかったお金のことです。
- 商品の仕入れ代
- アルバイトへの給与
- 店の家賃や光熱費
- パソコン、プリンターなどの購入費
- 取引先との打ち合わせにかかったカフェ代や交通費
- 業務に関するセミナー参加費 など
こういったお金は「必要経費」として、もうけから引くことができます。
雑所得とは?
雑所得とは、ほかの決まった種類の所得(たとえば給与所得・事業所得・不動産所得など)に当てはまらない、いろいろなタイプの所得のことをいいます。
「ほかのカテゴリーに入らなかった所得は、まとめて雑所得になる」というイメージです。
- 公的年金(国民年金・厚生年金など)
- 副業収入(原稿料、講演料、ネットショップなど)
- 暗号資産(仮想通貨)売買の利益
- フリマアプリでの売上
- アフィリエイト報酬
など、かなり幅広い種類の収入が「雑所得」に入ります。
雑所得は3つに分かれる
雑所得は、さらに次の3つに細かく分類されます。
種類 | 具体例 | 計算方法 |
---|---|---|
公的年金等に係る雑所得 | 国民年金、厚生年金など | 年金収入 - 公的年金等控除額 |
業務に係る雑所得 | 原稿料、講演料、ネットショップの売上、副業収入 | 総収入金額 - 必要経費 |
その他の雑所得 | 暗号資産、個人年金保険、フリマアプリ、アフィリエイト報酬など | 総収入金額 - 必要経費 |
フリマなどでの不用品の販売は収入に含まれません。(営利目的で仕入れて売る場合は含まれます。)
雑所得の計算
雑所得も、基本的には
収入(売上)- 必要経費 = 雑所得の金額
で計算します。
たとえば、副業でアフィリエイト報酬が10万円あり、サーバー代などの経費が2万円かかったなら、
10万円(収入)- 2万円(経費)= 8万円(雑所得)
ということになります。
副業における事業所得と雑所得の違い
副業による所得を事業所得と雑所得のどちらで申告するかは、税金の計算や確定申告の手続きにおいて大きな違いを生みます。両者の主な違いを以下の表にまとめました。
項目 | 事業所得 | 雑所得 |
---|---|---|
申告方法 | 青色申告または白色申告 | 白色申告のみ |
帳簿付け | 青色申告の場合は複式簿記 白色申告の場合は単式簿記 | 単式簿記 |
青色申告特別控除 | 最大65万円の控除が可能 | なし |
専従者給与 | 青色申告の場合、要件を満たす親族への給与を必要経費にできる | なし |
繰越損失 | 青色申告の場合、損失を翌年以降3年間繰り越せる | なし |
損益通算 | 他の所得との間で可能 | 雑所得内でのみ可能 |
必要経費の範囲 | 事業遂行に必要な費用は幅広く認められる傾向 | 事業所得に比べて限定的 |
事前手続き | 青色申告の場合は事前に「青色申告承認申請書」の提出が必要 「開業届」の提出が必要 | なし |
この表からわかるように、事業所得として申告する方が、税制上のメリットが大きい場合があります。特に、青色申告を選択することで、最大65万円の特別控除を受けられたり、家族への給与を経費にできたり、損失を繰り越せたりといった特典があります 。しかし、青色申告をするためには、原則として複式簿記による帳簿付けが必要であり、事前に税務署への申請も必要となります 。一方、雑所得は、白色申告のみで、青色申告のような特典はありませんが、帳簿付けの義務は原則としてありません(ただし、収入金額が一定以上の場合には帳簿書類の保存義務が発生します)。
あなたの副業は「事業所得」?「雑所得」?見分けるポイント
副業の所得が「事業所得」になるのか「雑所得」になるのか、ちょっとわかりにくいです。
ここでは、見分けるポイントをまとめます。
事業所得と雑所得を分ける5つのポイント
チェックするポイント | 説明 |
---|---|
① 規模の大きさ | 副業の収入が年間300万円くらいあることやある程度の規模があるか |
② 継続性・繰り返し | たまたま1回だけじゃなくて、ずっと続けて収入を得ているか |
③ 収入の安定感 | 一時的ではなく、安定して稼げているか |
④ かけている時間と労力 | 副業の時間や労力が、本業と同程度であるか、あるいは相応の時間を割いているか |
⑤ 帳簿をつけているか | 収入や経費をきちんと帳簿に記録しているか |
帳簿付けがカギ
2022年10月の所得税基本通達の改正により、収入金額が300万円以下であっても、帳簿書類の保存があれば、事業所得に区分される可能性が高くなりました。
逆に、帳簿付けを行っていない場合は、原則として雑所得として扱われます 。
ただし、収入金額が少なすぎる場合や、その所得を得る活動に営利性がないと認められる場合は、帳簿書類の保存があっても事業所得とされないことがあります 。
例えば、副業の収入金額が過去3年程度、年間300万円以下で、かつ本業の収入に対する割合が10%未満である場合は、事業所得と認められない可能性があります 。
こんな副業なら「事業所得」になりやすい
- 毎月コンスタントに稼いでいる
- 取引先があったり、お客さんがいたりする
- ウェブサイトやSNSで仕事の宣伝をしている
- 開業届を出している
- 帳簿をちゃんとつけている
こんな副業なら「雑所得」になりやすい
- たまたま売れたフリマアプリの売上
- 趣味の延長でたまに収入がある
- 年間収入がかなり少ない(数万円など)
- 帳簿をつけていない
総合的に判断すること
副業が「事業所得」か「雑所得」かは、1つのポイントだけじゃなく、
いろいろな状況を総合的に判断して決まります。
副業による所得の区分や確定申告の手続きは、個々の状況によって判断が難しい場合があります。ご自身の副業が事業所得と雑所得のどちらに該当するかわからない場合や、確定申告の手続きに不安がある場合は、税務署や税理士などの専門家に相談することをおすすめします。専門家のアドバイスを受けることで、適切な納税を行い、税務上のリスクを回避することができます。
事業所得のメリット・デメリット
副業で得たお金を「事業所得」として申告すると、いいことと大変なことがあります。
メリットとデメリットをわかりやすく紹介します。
- 青色申告で節税できる
特別な申告(青色申告)をすると、最大で65万円も収入から控除できます。 - 経費にできる範囲が広い
事業活動から生じた収入を得るために直接必要な費用は、幅広く必要経費として認められる可能性があります 。 - 家族に給与を払える
家族に副業を手伝ってもらった場合、その給料を経費にできる「青色事業専従者給与」という制度も使えます。 - 赤字になっても繰越損失が使える
もし副業が赤字になってしまっても、そのマイナスを3年間持ち越して、次の年の儲けから差し引けます。
- 事業認定の要件がきびしい
副業で得た所得が必ずしも事業所得として認められるとは限りません。事業として客観的に認められるための継続性、反復性、営利性、独立性などの要件を満たす必要があります。 - 帳簿付けと申告の手間
青色申告を行う場合は、原則として複式簿記による正確な帳簿付けが必要となり、白色申告に比べて手間がかかります 。 - 事前申請が必要
青色申告を行うためには、青色申告をしようとする年の3月15日までに「青色申告承認申請書」を税務署に提出する必要があります 。「開業届」もセットで提出しておいたほうがいい。
雑所得のメリット・デメリット
副業による所得を雑所得として申告することには、以下のようなメリットとデメリットがあります。
- 帳簿付けが比較的簡単
白色申告で済むため、青色申告のような複雑な複式簿記ではなく単式簿記で大丈夫です。 - 事前の手続きが不要
青色申告のような事前の申請手続きは必要ありません。
- 青色申告特別控除が受けられない
最大65万円の青色申告特別控除を受けることはできません 。 - 繰越損失ができない
雑所得で損失が出ても、翌年以降に繰り越して控除することはできません。 - 損益通算の範囲が限定的
事業所得のように、他の所得区分との間で損益通算を行うことはできません 。 - 必要経費の範囲が限定的になる場合がある
事業所得に比べて、必要経費として認められる範囲が狭くなる場合があります 。 - 収入が一定額を超えると帳簿書類の保存義務が発生
前々年の業務に係る雑所得の収入金額が300万円を超えた場合は、請求書や納品書といった現金預金取引等関係書類の保存が義務付けられます。また、前々年の雑所得の収入金額が1,000万円を超えると、確定申告書提出の際に収支内訳書の添付が必要になります。
まとめ
副業で収入を得た場合、その所得は事業所得または雑所得として扱われ、税金の計算や確定申告の手続きが異なります。事業所得は、青色申告による節税メリットがある一方で、帳簿付けの義務や事業としての要件を満たす必要があります。一方、雑所得は、手続きが比較的簡単ですが、税制上の優遇措置は限定的です。ご自身の副業の状況をしっかりと把握し、適切な所得区分で確定申告を行うようにしましょう。判断に迷う場合は、専門家への相談も検討してください。